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横浜地方裁判所 平成7年(わ)2252号 判決

主文

被告人を懲役六年に処する。

未決勾留日数中八〇日を右刑に算入する。

押収してある自動装てん式けん銃一丁(平成八年押第五九号の1)及び実包一〇個(同押号の2及び3。ただし、二個は分解、他の二個は試射したもの)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

第一

一  被告人は、法定の除外事由がないのに、平成七年一一月一六日午後一時三〇分ころ、横浜市鶴見区《番地略》先路上において、二五口径自動装てん式けん銃一丁(平成八年押第五九号の1)及び右けん銃に適合する火薬類であるけん銃実包三個(同押号の2は第一の二の事実で発射した残り)を共に携帯して所持した。

二  被告人は、同日時、同所において、A(当時四四歳)をら致しようとしたところ、同人の抵抗により失敗したため憤激し、持っていた前記けん銃の筒先で同人の頭部を殴打しようと考え、同人に対し、右手に持った右けん銃を、安全装置を解除した状態で、引き金に示指を掛けたまま、その頭部目がけて振り下ろし、同けん銃実包一発を発射するに至らせて同人の前額部に被弾させ、よって、同人に加療約一〇日間を要する前額部裂創の傷害を追わせた。

第二  被告人は、同日から同月二七日までの間、同市《番地略》所在の甲野二〇二号室において、火薬類であるけん銃実包八個(同押号の3)を所持した。

(証拠の標目)《略》

(法令の適用)

罰条

第一の一の行為

けん銃を適合実包とともに所持した点

銃砲刀剣類所持等取締法三一条の三第二項、第一項、三条一項

けん銃実包所持の点

銃砲刀剣類所持等取締法三一条の八、三条の三第一項

火薬類所持の点

火薬類取締法五九条二号、二一条

第一の二の行為

刑法二〇四条

第二の行為

けん銃実包所持の点

銃砲刀剣類所持等取締法三一条の八、三条の三第一項

火薬類所持の点

火薬類取締法五九条二号、二一条

科刑上一罪の処理

第一の一

刑法五四条一項前段、一〇条(最も重いけん銃を適合実包とともに所持した罪の刑で処断)

第二

刑法五四条一項前段、一〇条(重い銃砲刀剣類所持等取締法違反罪の刑で処断)

刑種の選択(第一の二及び第二の罪)

それぞれ懲役刑

併合罪の処理

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も重い第一の一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重)

未決勾留日数の算入

刑法二一条

没収

それぞれ刑法一九条一項一号、二項本文(量刑の理由)

本件は、元暴力団組員で債権取立などで生計を立てている被告人が、横浜在住のやくざから依頼を受けて現職の警察官である被害者を協力者三人とともにら致しようと企て、実包三個を装てんしたけん銃を携帯して被害者の自宅近くで待ち伏せた上、被害者が通りかかるや襲いかかり、所携のけん銃を被害者に対して突きつけたものの、被害者から抵抗されて計画が失敗したため、これに憤激し、持っていたけん銃の筒先で被害者の頭部を殴りつけようとした際、けん銃が暴発して被害者の前額部に当たり、裂創を負わせたほか、そのころ被告人が住居としていた場所に右けん銃用の実包八個を保管していたという事案である。

けん銃及び適合実包の所持の点については、けん銃を使用した凶悪事件が多発している折から、強い非難に値するものである上、本件においては、実包の装てんされたけん銃を人に突きつけているのであって、人の生命、身体に害悪を及ぼす危険性の極めて高い状態での所持であり、その態様は悪質である。

また、傷害の点については、そもそも被害者ら致にあたり、けん銃を持ち出すこと自体問題である上、安全装置を外し、引き金に指をかけたままの状態のけん銃を、被害者の頭部を狙って振り下ろしたもので、暴発の可能性は容易に予想できたのであり、受傷部位によっては致命傷になりかねない極めて危険な行為であったこと、約一か月にわたって被害者を監視し、協力者として知り合いの暴力団員二人を九州から呼び寄せるなど計画的な犯行であること、無防備な被害者を突然四人掛かりでら致しようとしたものであることなどからすれば、これまた犯行態様は甚だ悪質である。被害者のら致を企てた経緯等については被告人があいまいな供述をしているため詳細は明らかでないものの、被害者は被告人とは何の関わりもない者であって、少なくとも被告人との関係においては落ち度は認められず、動機において酌量すべき点はない。被害者に対して何の慰謝の措置も講じられていない。

以上に加えて被告人は安易にけん銃を使用するなど、被告人のこの種の犯罪に関する規範意識の欠如は顕著であること、被告人は前科九犯を有し更生の機会を多数回与えられているにもかかわらず犯罪を繰り返していることなどを考慮すれば、被告人の刑事責任は重大であるといわなければならない。

したがって、被告人は当公判廷において一応反省の態度を示しているものの、主文のとおり量刑するのが相当である。

(検察官 北岡英男 出席)

(求刑 懲役六年・没収)

(裁判長裁判官 中西武夫 裁判官 白川純子)

裁判官 秋山 敬は転補のため署名押印することができない。

(裁判長裁判官 中西武夫)

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